さまよえる仔羊

優柔不断全開、人生の迷子であるひつじ™のアレコレ。

Book: 「ハリガネムシ」吉村萬壱

正直な話、読み終わった後はなんつーしょうもない話だと思った。
平凡だったはずの高校教師が堕ちていく。
ただそれだけの話だ。

そのしょうもなさ、不快さ、どうしてこうなるんだという納得のいかなさ。
にも関わらず、一気に読み終わってしまった。
理不尽なその思いをオットに説明しながら、あぁ、これだけ私の感情を揺さぶっているのだと認識すると同時に、この作者はとても優れたストーリーテラーなのだと思わされた。

それにしても酷い話だ。
人の心の中に潜む残酷な心を引き出す女と出会ってしまったために、人間として最低辺と思えるような堕落を経験し、束の間と思われたその世界から、恐らくはその泥沼から這い上がることはできないであろう主人公。
そして、それは恐らく、主人公本人の中にもともと存在した欲求で、他者によって引きずり込まれたように見えるこの状況は、すべて自らの選択なのだと。
誰が誰を引きずり込み、何が堕落なのか。

この感覚はどこかで経験したことがある。
そうだ、学生の時に読んだジュネの「泥棒日記」だ。
あの時は、こんな世界もあるのかと強いパンチを食らった気分で、思わず鼻の奥がツーンとしたのを記憶している。 

などと、この作品から読みとれそうなものを最大限読みとろうとしたけれど、こんなもん真剣に考えたら、自分もこの堕落スパイラルに巻き込まれると思い直し、とりあえず忘れることにする。
脳内の記憶容量だって有限だ。

教訓とするならば、人生、どこに落とし穴があるか分からないということか。
男女の関係で身を持ち崩す人の不可思議さの謎が解けた気がする。
一度足を踏み外したら、重力には逆らえないのだ。
よく例えられるとおり、そこは泥沼なのだろう。

記憶に新しい芥川賞受賞作が「苦役列車」だっただけに、読み終わった時には膝から崩れ落ちそうになりました。 

※ 2003年上半期 第129回 芥川賞受賞