さまよえる仔羊

優柔不断全開、人生の迷子であるひつじ™のアレコレ。

Book: 「神の火」 高村薫

図書館で北村薫作品を読もうと手に取った時、短絡的に高村薫のこの作品を読みたいと思っていたことを思い出しました。

原発を扱った作品です。 

3.11以来、原子力発電にまつわる問題については何ともすっきりしない思いを抱えて来ました。
情報ばかりが溢れ、答えがどこにもないからです。
人間は、自分たちの手に負えない力を手に入れてしまったのではないか。
私たちの生活は、とてつもないエネルギーを持ちながらもあまりにも不安定で危うい、人知を超えた奇跡の上に成り立っている。 
そんなことを思い、この問題について不用意に口にすることは止めようと心に決めました。

ただ、考えることを止めてはいけない。
知ることを止めてはいけない。
ただ、あまりにも情報が多く、何を信じていいのか分からない。
しかも、この手の情報はやたら小難しい単語と数字ばかりで、まったく頭に入ってこない。
だから、小説の力を借りることにしました。

高村作品に取り上げられる世界は、私の日常とはあまりにかけ離れた世界です。
原発の元研究者にして国際的スパイ、ロシア人とのハーフ、造船会社の御曹司。
想像もできない世界を、高村薫の緻密な描写がリアリティを感じさせてくれます。
そして、その合間合間に原発を巡るさまざまな課題やこれまでの経緯が主人公の口を通して語られる。
実に分かりやすく、あらゆる側面から。

3.11以前、一度この作品を読んだ記憶があります。
ただ、その時はただの娯楽作品としか受け取っていなかった。
3.11以後、確実にこの作品の受け取り方が変わっていた。
私の中に確かな変化が起こっていることを実感させてくれた。
小説に対する感想よりも、今このタイミングで読んで良かったと思える作品でした。