さまよえる仔羊

優柔不断全開、人生の迷子であるひつじ™のアレコレ。

Book: 「スキップ」 北村薫

ハリガネムシの傷をえぐり続けるような描写に疲れて次に手を伸ばしたのが、北村薫の「スキップ」。
とにかくクリアなミネラルウォーターを飲みたかった。
そんな気分だ。

携帯小説にありそうな横文字単語のタイトルになかなか手が出なかったのだが、時と人三部作の第一作という何とも魅力的な響きに、ある程度ストーリーを予想しながらページを開いた。

もともと、私はタイムスリップやパラレルワールドなど、時間軸の歪みを舞台にした物語が大好きだ。
好きな映画を問われれば、気恥ずかしさ半分で「スターゲート」と答える。
テレビ版ですっかりマニア向けの作品となったこの名前を聞くと、たいていの人が変な顔をする。
もっとロマンチックな作品名を挙げることだってできるが、人類最大の謎を解き、自ら新しい世界に乗り込む典型的なインドア系科学者が、異世界の住人と交流を深め、その敵と戦い、最後には自らの生まれた世界を捨てて新しい世界に留まる決断をする。
私の中で最もロマンチックなシチュエーションであり、主役の博士はもちろんハンサムなメガネっこだ。
ちなみに、私をメガネ萌えにしたのはスーパーマンことクラーク・ケントだ。

どうでもいいことばかりを書いてしまった。話を戻そう。

「スキップ」で時間を飛び越えてしまうのは、17歳の女子高生だ。
しかも、気がつくと25年以上の時を飛び越え、高校教師をするオバサンとなっているのだ。
飛び越えてしまった時間の記憶はまったくない。
目の前に現れる自分と同じ年の娘と、恋をするにはあまりにおじさんな夫。
過去に戻る話は数あれど、あまりに残酷ではないか。
17歳以降の自分の人生を振り返ると、そこには濃密な思い出があり、今の私はその後のできごとによりしっかりと形成されたと認識している。
その記憶がごっそりと抜けているとは。

それでも、少女の心を持ったオバサンは前を向いて生きていく。
生徒と心を通わせ、娘とたくさんの話をし、夫と距離を縮めていく。
あるエピソードには涙さえ流した。

全編にわたり、そこには教師の生徒への愛情を感じる。
作者のプロフィールを見ると、そこにはかつて高校教師をしていたことが紹介されていた。
目から鱗だった。
北村作品のやさしさは、若者の成長を信じて見守る教師の目線だったのだ。

私は17歳の女子高生は経験したことがある。
残念ながら教師の経験は一度もない。
いつも煙たい存在だった先生たち。
時に交流があったとしても、いつも私を評価するだけの存在だと思っていた。
どこか別世界の住人だと感じていた。
そんな彼らの素の顔をふと思いだし、会いたいと思った。
あの頃の先生はどんなことを思いながら毎日を送っていたのか、聞いてみたい気がした。