さまよえる仔羊

優柔不断全開、人生の迷子であるひつじ™のアレコレ。

Book: 「リセット」 北村薫

前半は、第二次世界大戦当時の女学生の目線で描かれる。
当時の女学生の日常が、淡々と、実に淡々と描かれている。
そして、悲劇は突然訪れる。

「時と人」三部作の最終作品。
いつ、誰が、どんな風に時間の罠に落ちるのか。
今か今かと読み続けた。
でも、その答えはなかなか出てこない。
じりじりとしながら読み続けると、語り手が変わってしまうのだ。

小さく落胆しながらも、もしかしたらという予感がよぎる。
でも、その予想はことごとくはずれてしまった。 
そのたびに、ぐいぐいと作品に引きずり込まれた。

それにしても、本を巡る人の交流には心惹かれた。
本を自由に買えるほどのお金を持たなかった頃、友人達と本を貸し借りしていたころを思い出した。
残念ながら、この作品に出てくるほどのステキな交流はなかったものの(笑)。
現代は電子書籍への移行期で、我が家でも本を買わなくなっている。
この本も図書館で借りているわけだ。
電子書籍は貸し借りという文化には現在対応していない。
それはただのコンテンツという扱いを受けることになる。
IT業界の片隅で働く身としては、とても寂しいことだと感じている。
貸し借りを前提とした仕様をAppleやAmazonが実装してくれないものかとも思っている。

そんなちょっと昔のことになろうとしている文化へのノスタルジーも感じつつ、実におもしろい作品だった。
そして、この作品があったからこそ「鷺と雪」が生まれたのだと深く感じた。

北村作品は、最後に必ず出典リストが掲載される。
これも実は密かな楽しみだ。
これだけのものを引用して、これだけのものからインスピレーションを得て作品が成り立つ。
実に文学的ではないか。

ちょっとでもストーリーが似ている、表現が似ていると言っては、盗作じゃないかと大騒ぎする人たちがいる。
でも、日常の日本語だって、すべては親の言葉遣いやどこかでいいと思ったものの模倣の積み重ねだ。
著者が影響を受けたであろう、あるいは登場人物に影響を与えたとされる作品をさらに読むことで、読書の楽しみが増えるというものだ。

北村作品を読んだ後には、いつも気持ちのよい風が心の中を吹き抜ける気がする。
そのことに感謝したい。