Book: 「夜のピクニック」 恩田陸
高校三年生。
夜のピクニックに登場する二人の主人公ほどの複雑な問題も抱えず、私は毎日をのほほんと生きていた。
それでも、私なりの悩みはあったし、友人たちもそれぞれ悩みを抱えていたように思う。
当時の自分にとっては人生の大問題だった悩みを打ち明けられる友人もいた。
高校の友人一人一人の顔を思い出し、登場人物の一人に当てはめていく。
とてもクールで賢い子がいた。
遠くを見ている子がいた。
夢見がちな子がいた。
いつも面白いことばかり考えている子がいた。
自分はどんな風に見えていたのだろうと思う。
この作品に出てくる子たちは、それぞれがとても魅力的に輝いている。
少し意地悪な子が出て来ても、それさえとても愛らしいと思う。
著者のやさしい目線のせいかもしれない。
とても複雑な事情を抱えた主人公たちは、一晩中歩き続ける学校行事を通してその友人たちのやさしさに触れ、ついには心を固く覆っていた殻をつき破る。
見事なまでに。
少々不満があるとすれば、みんながみんなやさしすぎることだ。
ただ、少しだけ身勝手で弱い人間たちが、歩み寄る手段を持っていなかった。
そういうことなのかもしれないが。